介護職も含め、体を動かす職業につきものである腰痛。
慢性的なものは日常生活に支障をきたす他、ケースによっては歩行すら困難、ということもありえます。
そこで今回は、介護業務中に発生した腰痛は労災申請できるのか?という点から、腰痛の対策方法や改善方法までお伝えしていきます。
介護職で腰痛になったら、労災補償はもらえる?
そもそも労災とは
労災という言葉は皆さん良く聞く言葉だと思います。
正式には「労働災害」という名前であり、職場における労働者の安全と健康の確保、ならびに快適な職場環境の形成を目的で制定された「労働安全衛生法」にその定義が書かれています。
労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
引用 e-gov 法令検索 労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)
このように、仕事や通勤が原因で負傷、または病気になることを労働災害といい、仕事によって発生した労働災害は「業務災害」、通勤によって発生した労働災害は「通勤災害」として分類され、労災保険が適用されます。
また労災保険は、原則として企業の規模や雇用形態にかかわらず労働者すべてに適用されるので、気兼ねなく申請しましょう。
腰痛は労災対象?
ただ、腰痛は慢性的なものだと業務が原因だったかどうか判断が難しく、労災申請が難しいのでは?と思われることでしょう。
厚生労働省は業務上疾病の範囲を明確にすることで、より労災申請をスムーズに行えるようにするための「職業病リスト」を設定しています。
そこには
「重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務、その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛」
引用 厚生労働省 職業病リスト
と腰痛も労災対象として明記されています。
よって、もし介護職になってから腰痛を発症したのであれば、ぜひ一度申請を行い、適切な処置を受けてみて下さい。
介護職で腰痛になる人は多い?
社会福祉施設での労災件数は増えている
厚生労働省が公表した令和3年の労働災害発生状況によると、社会福祉施設での労災件数は18421件。
これは全産業中、3番目の高さです。
そのうち、「動作の反動・無理な動作(腰痛など)」は労働災害の原因の35.5%を占めており、介護職で腰痛になる人は多いということがわかります。
令和2年度まで、全産業で労働災害件数が減少傾向にあるなかでも、社会福祉施設での件数はそれに反して増加傾向にありました。
特に令和2年における労働災害の原因は「転倒」が一番多く、次いで「動作の反動・無理な動作(腰痛等)」が2位で、この2つが原因の半数以上を占めています。
転倒に関しては高年齢の方に多いほか、特に女性に多く見られました。
また「動作の反動・無理な動作(腰痛等)」は他産業と比較して全世代で高く、特に19歳以下では他の産業の約5倍の方が労災と認定されていました。
腰痛になる人の傾向は?
令和3年のデータによると、申請件数の28.7%が60歳以上とのことで、やはり筋力に衰えが見え始めた高齢期の方たちは特に腰痛になるリスクが高いことがわかります。
だからと言って若い方が大丈夫かと言えばそうではなく、前述したように、19歳以下では他の産業の約5倍の方が「動作の反動・無理な動作(腰痛等)」が原因で労災と認定されている現状があります。
つまり、若いからと無理な体の使い方をしてしまえば腰痛を発症するリスクも高く、無理をせず、きちんと体の使い方を覚えていく必要があることがわかります。
介護職での腰痛、対策方法は?
介護職で腰痛になってしまった場合、労災申請ができることは確かですが、そもそも腰痛は日常生活にも支障をきたすため、できるだけなりたくありませんよね。
そこでまずは、腰痛にならないための対策方法をご紹介していきます。
抱え上げは極力人力で行わない
介護業務によって引き起こされる腰痛の原因は大きくわけて「不安定な姿勢で重たいものを持つ」「無理な姿勢を保ったまま仕事をする」「寒い環境で仕事をする」の3つにわかれます。
特に重たいものをもつことで腰痛が引き起こされるのはイメージしやすく、また経験がある方もいるのではないでしょうか。
特に利用者の方をベッドから車椅子、車椅子からベッドに移乗する際、リフトなどの福祉用具を使うと時間が掛かるので、抱え上げで移乗してしまうケースもあるでしょう。
しかし、人の体を抱え上げるのは間違いなく自分の体に負担がかかりますし、ベッドと自分の身長の高低差によっては腰にとても負担がかかる作業です。
そのため、例え時間がかかってもリフトやスライディングボードなどの異常器具を使用する、場合によっては2人介助を行うなどして、体の負担になるような移乗は控えるようにしましょう。
ベッドや作業台の高さを調整する
腰痛は無理な姿勢を保ったまま仕事をすることでも発生します。
そのため、ベッドや作業台の高さを調整することなく、中腰の姿勢のまま着衣介助やおむつ介助などを行えば、当然腰痛リスクにつながるでしょう。
確かに、時間が無いとベッドや作業台の高さを調整する時間すら惜しく感じます。
安全のためベッドや作業台もゆっくり上下するので、なおのこと焦れったく感じますよね。
しかし、その積み重ねが腰痛となり、後々自分のペースで業務を遂行することも難しくなってしまいます。
少し手間だ、と思っても自身の健康のため、高さは調整するようにしましょう。
体温調節はきちんと行う
寒い環境で仕事をすることも、腰痛の原因になります。
福祉施設は利用者さんもいることだし、温度調節はしっかりされているのでは?と思われるかも知れませんが、例えば入浴介助のあと着衣介助などで、濡れた服のまま介助に入っている、なんてことはありませんか?
その場合濡れた衣服が体温を奪うため、存外体が冷えている、ということはよくあるのです。
ぜひ浴室と脱衣所、それぞれで介助する場合はきちんと体を拭いて、適温の状態で介助を行いましょう。
介護職での腰痛、改善方法は?
ここまで対策方法をお伝えしてきましたが、対策をしていても腰痛になってしまい、悩んでいる方もいらっしゃることでしょう。
そこで次は、腰痛になってからの改善方法をご紹介していきます。
しっかり休む
労働災害により休業した場合には、4日目から休業補償給付が受けられます。
もちろん腰痛の程度にもよりますが、まず現場に相談して休みをもらうか、事務仕事を中心にさせてもらうなど、安静な姿勢を保つことを考えましょう。
現場に申し訳ない、人手が足りなくて無理そう、と思うこともあるかもしれませんが、体は一生ものであり、特に腰は人体の要です。
ここは無理せず、安静にすることをオススメします。
異動や転職なども検討を
もし現場が労災と認めてくれない、人手不足で休みたいと言いづらい、という場合は転職も選択肢に入れましょう。
同じ老人介護施設でも、入所されている方々の自立度が違うだけで支援の内容も変わってきます。
もし不安な方は、ぜひ一度第三者のアドバイスも受けながら、自分にとってよりよいキャリアを考えていってくださいね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は介護業務中に発生した腰痛は労災申請できるのか?という点から、腰痛の対策方法や改善方法までお伝えしてきました。
どのような職につくとしても、体が資本であり、無理は禁物です。
ぜひ自分の状況を第三者の視点で振り返り、よりよいキャリアを描いていってもらえたらと思います。