介護職で働く中で「介護職の給料は安い」という話題は誰もが聞いたことがあるでしょう。
そこで今回は「介護職の給料は本当に安いのか?」をテーマに、厚生労働省のデータや他業界との比較データをご紹介。
その上でなぜ安いと思われがちなのか、その理由もお伝えしていこうと思います。
介護職の給料は安すぎるってホント?
全産業の平均賃金は323万円
厚生労働省が毎年行っている「賃金構造基本統計調査」によれば、令和3年度における全産業の正社員の平均賃金は323万4000円。
その中で「医療・福祉」の正社員の平均賃金は301万5000円。
確かに、医療や福祉の平均賃金は全産業の平均より下であり、給料は安いと言うことができるでしょう。
参考 厚生労働省 令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況
介護業界の所定内賃金は?
さらに実情を詳しくみていきましょう。
厚生労働省が毎年まとめている「労働統計要覧」によると、令和3年6月における介護職員(医療・福祉施設等)の所定内賃金は23万9800円でした。
所定内賃金とは毎月きまって支給する賃金のことで、基本給やボーナスや手当などが含まれます。
しかし深夜手当や残業手当などは含まれていないため、実情よりはいささか低く見積もってあるということができるでしょう。
この統計要覧のデータは勤続年数や役職すべてをまとめた平均値なので、自分の所感と異なる部分もあるでしょうが、他業種との比較に役立ちます。
介護職員(医療・福祉施設等)の所定内賃金(23万9800円)付近の別職種と、医療、福祉業界の所定内賃金を以下にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
業種 | 所定内給与額 |
飲食物調理従事者 | 23,3200円 |
居住施設・ビル等管理人 | 23,7600円 |
農林漁業従事者 | 23,8700円 |
介護職員(医療・福祉施設等) | 23,9800円 |
販売店員 | 24,1100円 |
バス運転者 | 24,1300円 |
電話応接事務員 | 24,2600円 |
歯科衛生士 | 24,4900円 |
栄養士 | 24,5600円 |
保育士 | 24,5800円 |
訪問介護従事者 | 24,5800円 |
幼稚園教員,保育教諭 | 25,1200円 |
准看護師 | 26,9000円 |
介護支援専門員(ケアマネージャー) | 26,9100円 |
理学療法士/作業療法士/言語聴覚士/視能訓練士 | 28,1900円 |
看護師 | 30,9100円 |
このように、医療・福祉業界でも介護職員の所定内賃金は低く、それもあって「介護職は賃金が安い」というイメージが定着しているようです。
参考 厚生労働省 労働統計要覧(E賃金)
介護職の給料は安すぎる理由は?
報酬制度で運営されているから
現在、介護サービスは「介護報酬制度」が取られています。
事業所は利用者と契約を結び、契約した分のサービスを提供することで、国にサービス費用(介護報酬)などを請求する、というシステムです。
この介護報酬の算出方法ですが、介護報酬にはまず「単位」というものがサービスごとに設定されています。
その単位に地域で設定された金額をかけたものが介護報酬であり、事業所に支払われる金額なのです。
例えば介護老人保健施設の基本報酬は、多床室基本形の場合、要介護1で788単位。
これに地域で設定された金額をかけたものが介護報酬として算出され、事業所に支払われることになります。
この単位数や地域で設定された金額などを含めた介護報酬は、介護保険上、厚生労働大臣が社会保障審議会の意見を参考に決定することになっています。
そのため現場からの声を届けることはできるものの、最終決定は国が行うため、思うように報酬が上がらない現状があるのです。
また介護保険制度は「区分支給限度額」といって、要介護度によって利用できるサービスに上限が設定されています。
それ以上サービスを利用したい場合は自己負担となってしまうため、利用者がサービスの利用を控えている現状もあるのです。
そのため、介護業界は他の業界のように、売れば売るだけ、頑張れば頑張っただけ売り上げや給料に反映される業界ではありません。
そこがまず、介護職の給料が安い一因と言えるでしょう。
参考 厚生労働省 令和3年度介護報酬改定における改定事項について
無資格でも始められるから
また、医療・福祉業界の中でも、特に介護職は無資格未経験でも始められる職業と言えます。
未経験から始められる、特別なスキルが必要ない職業というのは、おおむね給料設定が低い傾向にあります。
介護職も同様で、低く設定されているケースが多く見られます。
同じ福祉でも、保育士や看護師などは国家資格が必要な業種であり、その分給料も高く設定されているケースが多いです。
この違いが、前述した所定内給与額に反映されていると言えるでしょう。
ですがご存じの通り、介護職も介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)といった国家資格を取得することで、資格手当が支給されたり、キャリアアップを目指すことができます。
特に介護支援専門員(ケアマネージャー)になると一気に賃金もあがるので、介護職でキャリアを積んで行きたい方にはオススメの資格です。
労力に見合っていないと感じるから
公益財団法人介護労働安定センターが毎年行っている「介護労働実態調査」によると、令和2年度における「労働者の労働条件・仕事の負担に関する悩み」で一番多かったのは「人手が足りない」で、次に多かったのは「仕事内容のわりに賃金が低い」でした。
介護職は単に体を動かす仕事ではなく、人を相手にさまざまな気遣いが求められます。
体力を使いながら頭も使う仕事であるのに、人手不足も重なってしまえば「仕事内容のわりに賃金が低い」と思うのは当然のこと。
自分の労力と賃金が釣り合っていないという実感もまた、介護職の給料が安すぎると思う一因になっているのでしょう。
参考 公益財団法人介護労働安定センター 令和2年度 介護労働実態調査結果について
給料が安すぎる介護職、現状を打破するためには?
処遇改善の動きもある
令和3年、厚生労働省は第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づき、都道府県が推計した介護職員の必要数を公表しました。
これによれば、2025年度までに約32万人の介護職員を確保する必要があると推計されています。
そのため、厚生労働省は介護人材確保に向けた取り組みを実施しており、経験・技能のある職員に対し月額アップなどの処遇改善を行った事業所に対して介護報酬を加算する、すなわち「介護職員処遇改善加算」を実施しています。
加算要件は3段階にわかれていますが、すべての要件を満たした事業所で働く介護職員の平均給与は32万3190円という調査結果も出ており、前述した「労働統計要覧」(※2)の23万9800円という結果を遙かに上回っています。
また令和4年10月以降は介護職員等ベースアップ等支援加算も決定しており、処遇改善の動きが進んでいるということができます。
参考 厚生労働省 介護人材確保に向けた取り組み
厚生労働省 令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果
転職や副業も検討しよう
しかし、それでも物足りない、もっと自分の労力に見合った職場で働きたい、という方もいらっしゃることでしょう。
現状、介護業界は需要と安定性はあるものの、制度の関係上、他業種のような「稼ぎ」に重きをおいた働き方は難しいのが現状です。
そのため、「もっと稼ぎたい」「もっと収入を増やしたい」と思う方は、より頑張りに見合った報酬を獲得できる他業種への転職や、安定した介護職をメインにおきながら、副業で+αを稼ぐ、というようなやり方も選択肢となるでしょう。
ぜひ自分のキャリアを踏まえた上で、ぴったりの方法を模索してみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「介護職の給料は本当に安いのか?」をテーマに、データを参照しながら現状打破の方法をご紹介してきました。
しかし、これはあくまで大まかな例であり、より自分にあったアドバイスが欲しい方が多いと思います。
ぜひ信頼できるアドバイザーなどの力も借りて、よりよいキャリアを描いていってください。